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第4部 AI対話力をDXへ広げる

― モデリングとロジックで、仕事と未来をデザインする ―

目次

4-1 モデリング力とロジック力を身につける
― AIとの対話から、仕事の構造と流れを捉える力へ ―

4-2 未来をデザインするために
― なりたい姿を明確にし、チームで実行する力へ ―

   

ここまで、AIと対話しながら、自分がしたいことを明確にし、必要な情報を整理し、問いを重ねながら考えを深める方法を学んできました。

第4部では、これまで身につけてきた論理的思考力と、AIとの継続した対話力を、実際の仕事やDX(デジタルトランスフォーメーション)へと広げていきます。

その第一歩は、自分たちの仕事を明確にすることです。

仕事の現場では、多くの人が関わり、モノやお金が動き、さまざまな情報がやり取りされています。普段は当たり前のように行っている仕事でも、その全体像や流れ、関係を説明しようとすると、意外に難しいものです。

そこで、仕事を「見える化」(モデリング)することから始めます。

現在の仕事を見える形にすることで、現状(As-Is)が明確になります。そして、そこから課題を見つけ、「これからどのような仕事にしたいのか」というあるべき姿(To-Be)を描きます。そのあるべき姿を実現していくことが、DXの実践へとつながります。

「仕事を見える化する」「DXを実践する」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。

しかし、生成AIの登場によって、その進め方は大きく変わってきました。

これまで人が多くの時間をかけて行っていた、情報の整理、仕事の流れの整理、課題の洗い出し、アイデアの検討、図や文章への整理など、さまざまな作業をAIが支援してくれるようになりました。

そのため、すべてを一人で考え、すべてを一人で作る必要はありません。

大切なのは、「何をしたいのか」「何が問題なのか」「どのような姿を目指したいのか」を自分で考え、AIに伝え、対話を続けることです。

AIから得られた答えをそのまま使うのではなく、問い直し、比較し、確かめながら、自分たちの仕事に合った形へと整理していきます。

これは、ここまで学んできたAIとの継続した対話の進め方と同じです。

第4部では、AIと対話しながら、次の五つのモデリング手法を使って、仕事を見える化していきます。

  • リッチ・ピクチャ
  • ビジネス構造図
  • 業務フロー図
  • 状態遷移図
  • 情報モデル図

名前だけを見ると難しそうですが、ここで詳しい作成方法を覚える必要はありません。

実際にモデリングのプロセスをたどりながら、AIをどのように活用すれば仕事を整理できるのか、現状からどのように課題を見つけ、あるべき姿を描き、DXの実践へつなげていくのか、その全体像と進め方のイメージをつかむことが目的です。

仕事を見える化する。
現状を知る。
課題を見つける。
あるべき姿を描く。
そして、DXを実践する。

AIを活用することで、これまで多くの時間を必要としていた作業を効率化し、より多くの時間を、考えること、問いを立てること、対話すること、そして判断することに使えるようになります。

AIができることはAIに任せ、人間は目的を考え、AIとの対話を重ねながら、よりよい答えを探していく。そして、人と人が対話し、考えを共有し、チームで実行していく。

第4部では、これまで身につけてきた論理的思考力とAIとの継続した対話力を使って、仕事を見つめ、仕事を変え、未来をデザインするところまで進んでいきます。

     

― AIとの対話から、仕事の構造と流れを捉える力へ ―

      

■ モデルとは何か

モデルとは、現実にある複雑なものの中から、目的に必要なものを取り出し、分かりやすい形で表したものです。

たとえば地図は、現実の街にあるものをすべて描いているわけではありません。道路や駅、建物など、目的に必要な情報を選び、分かりやすい形で表しています。

    

■ モデリングとは何か

このように、現実にあるものや出来事を、目的に合わせて整理し、モデルとして表すことを「モデリング」といいます。

仕事も同じです。実際の仕事には、人、モノ、金、情報、さまざまな作業や判断が複雑に関係しています。

それらの中から必要なものを取り出し、関係や流れを整理して「見える形」にすることが、仕事のモデリングです。

そして、複雑な仕事を整理し、その構造や関係、流れを分かりやすい形で表す力を、ここでは「モデリング力」と呼びます。

図4-1-1仕事を「見える化」するって、どういうこと?

        

― 頭の中にある仕事を、共有できる形にする(As-Is:現状)―

ここからは、AIと対話しながら仕事を「見える化」する5つのモデリング手法を順番に見ていきます。

具体的なイメージを持ちながら学べるように、本講座では、中華料理店『大将』を例にしてビジネスモデリングを実践していきます。
この事例では、この中華料理店を「中華料理 大将」とします。
まず、この店の現在の姿を見てみましょう。

この店は、地域のお客様が日常的に利用する、一般的な中華料理店です。

入り口から店内に入ると、右側の壁に沿って4人用テーブルが5卓、中央には2人用テーブルが5卓あります。

店の左側には比較的広い厨房があり、厨房に向かい合うようにカウンター席が10席あります。カウンターの中央には厨房とフロアを行き来するための通路が設けられており、フロアスタッフはこの通路を使って、注文を伝えたり、できあがった料理を運んだりします。

レジは入り口の左横、カウンターの延長にあります。
トイレは店内の左奥にあります。

厨房では数名の調理スタッフが料理をつくり、フロアではスタッフがお客様の案内、注文、配膳、会計を担当しています。
会計は、手の空いているフロアスタッフがレジで対応します。

店内では、お客様とスタッフ、料理、注文、代金、さまざまな情報が行き交いながら、日々の仕事が進んでいます。一見すると、ごく普通の中華料理店です。

図4-1-2 店舗レイアウト(今回の事例)

しかし、この店の仕事を詳しく見ていくと、

誰が仕事に関わっているのか。
モノやお金、情報はどのように動いているのか。
仕事はどのような順番で進んでいるのか。
どのような状態の変化が起きているのか。
どのような情報が必要なのか。

など、さまざまな視点から捉えることができます。

そこで、この中華料理店を一つの題材として、次の5つのモデリング手法を順番に使っていきます。

① リッチ・ピクチャ ― 全体像と関係を捉える
② ビジネス構造図 ― ビジネスの構造を整理する
③ 業務フロー図 ― 仕事の流れを整理する
④ 状態遷移図 ― 状態の変化を整理する
⑤ 情報モデル図 ― 情報とその関係を整理する

同じ中華料理店を異なる視点から繰り返し見ることで、5つのモデリング手法が、それぞれ何を明らかにするためのものなのかを確認していきましょう。

そして、この一連のプロセスを、AIと継続的に対話しながら進めていきます。

図4-1-2-1 同じ仕事を、五つの視点から見る

     

― 人・モノ・金・情報の関係を描く ―

■ リッチ・ピクチャとは何か
現状の仕事を見える化するためには、まず、現場で今どのような仕事が行われているのか、誰が関わっているのか、どのような体制で仕事が進んでいるのかを、ヒアリングで確認する必要があります。

そのヒアリングした内容をもとに、仕事の全体像がつかめるよう一枚の絵に表したものを、本講座では「リッチ・ピクチャ」と呼びます。

リッチ・ピクチャには、登場人物、場所、仕事内容を描きます。そして、人・モノ・金・情報がどのように関係し、動いているのかが分かるように、言葉や矢印を加えます。

最初から、厳密な記号や正確できれいな図にする必要はありません。まずは、「誰が、どこで、何をしているのか」を一枚の絵として捉えることが大切です。

全体図だけでは詳しく分からない仕事は、来店、注文、調理、配膳、会計などのシーンに分け、それぞれをリッチ・ピクチャとして描くこともできます。

■ 中華料理店をリッチ・ピクチャにしてみる

ここからは、リッチ・ピクチャを描いてみましょう。
最初に、先ほど整理した中華料理店の現在の姿をもとに、AIへ次のように依頼します。

「以下の中華料理店の現状をもとに、仕事の全体像をリッチ・ピクチャとして描いてください。登場人物、場所、仕事内容、人・モノ・金・情報の関係が分かるように、一枚の絵にしてください。」

図4-1-3 リッチ・ピクチャ(中華料理店:全体)

    

■ 仕事をシーンごとに見てみる

次に、店舗全体のリッチ・ピクチャだけでは分かりにくい仕事を、いくつかのシーンに分けて見てみましょう。

たとえば、お客様が店内で食事をする場合、次のようなシーンがあります。

① 来店・案内
お客様が来店します。フロアスタッフは人数などを確認し、空いている席へ案内します。

図4-1-4 リッチ・ピクチャ(中華料理店:来店)

     

② 注文
お客様が料理や飲み物を選びます。フロアスタッフが注文を受け、内容を確認して厨房へ伝えます。

図4-1-5 リッチ・ピクチャ(中華料理店:注文)

     

③ 調理
厨房では注文内容を確認し、調理スタッフが料理をつくります。料理をつくるための食材や調理器具が使われ、使用した調理器具や食器などの洗浄も行われます。

図4-1-6 リッチ・ピクチャ(中華料理店:調理)

     

④ 配膳・食事
できあがった料理をフロアスタッフがお客様のテーブルへ運びます。お客様が食事をしている間にも、追加の料理やビールなどの注文があれば対応します。

図4-1-7 リッチ・ピクチャ(中華料理店:配膳・食事)

     

⑤ 会計・退店
食事を終えたお客様はレジで代金を支払い、退店します。
この店では、手の空いているフロアスタッフがレジで会計に対応します。

図4-1-8 リッチ・ピクチャ(中華料理店:会計・退店)

    

■テイクアウトも見てみる

さらに、店内で食事をするお客様だけでなく、テイクアウトを利用するお客様もいます。

テイクアウトの場合には、注文を受け、厨房で料理をつくり、商品を渡し、代金を受け取るという、店内での飲食とは異なる仕事の流れがあります。

図4-1-9 リッチ・ピクチャ(中華料理店:テイクアウト)

このように、全体を一枚のリッチ・ピクチャとして捉えたうえで、必要に応じてシーンごとに分けて描くことで、実際にどのような仕事が行われているのかを、より具体的に理解できるようになります。

       

■ リッチ・ピクチャを充実させる
最初に描いたリッチ・ピクチャだけで、仕事の全体像を十分に捉えられるとは限りません。

図を見ながら、関係者への追加ヒアリングやAIとの対話を行い、隠れている仕事はないか、見落としている関係者や情報はないかを確認します。

たとえば、次のような点を確かめます。

「この場面で、ほかに行われている仕事はないか」
「関わっている人や外部の組織に漏れはないか」
「人・モノ・金・情報の動きに、描けていないものはないか」

この段階では、改善案を考えることが目的ではありません。まずは、実際に行われている仕事をできるだけ正確に捉え、現状のリッチ・ピクチャを充実させることが大切です。

     

■ リッチ・ピクチャからビジネス構造図へ

リッチ・ピクチャによって仕事の全体像が見えてくると、そこに登場する人・モノ・金・情報と、それらの関係や流れも見えてきます。

次のステップでは、リッチ・ピクチャから必要な要素を取り出し、

「誰と誰が関係しているのか」
「何がどこへ動いているのか」
「どのような情報がやり取りされているのか」

を整理し、より明確な形で図に描いていきます。

それが、次に学ぶ「② ビジネス構造図」です。

図4-1-10 リッチ・ピクチャからビジネス構造図へ

    

■ ビジネス構造図とは何か

リッチ・ピクチャでは、仕事の全体像を一枚の絵として捉えました。 ビジネス構造図では、その絵の中から仕事に関わる「人・組織・モノ・金・情報」を抜き出し、それぞれの役割と相互関係を整理します。

具体的には、

  • 「誰が仕事に関わっているのか」
  • 「それぞれがどのような役割を担っているのか」
  • 「モノ・金・情報は、誰と誰の間をどのように動いているのか」

といった要素を、箱(ノード)や矢印を使って可視化します。

直感的に仕事の雰囲気や全体像を捉える「リッチ・ピクチャ」に対し、「ビジネス構造図」は仕事を支える役割や関係性を客観的・構造的に整理するための図です。

     

■ リッチ・ピクチャをもとに、ビジネス構造図を描く

ここでは、先ほど作成した中華料理店のリッチ・ピクチャをもとに、ビジネス構造図を描いてみましょう。

まず、作成したリッチ・ピクチャをAIに添付し、次のように依頼します。

◆AIへの依頼例(プロンプト)

「添付したリッチ・ピクチャをもとに、中華料理店の現状(As-Is)をビジネス構造図として描いてください。 ビジネス構造図では、登場する人や組織、それぞれの役割、そして人・モノ・金・情報の関係を整理します。

お客様、フロアスタッフ、厨房、レジ、仕入先を分けて示し、モノの流れは青、情報の流れは緑、お金の流れはオレンジの矢印で表してください。

仕事の細かな手順ではなく、全体の役割と関係が分かる図にしてください。」

このように依頼すると、リッチ・ピクチャに描かれていた要素が構造化され、それぞれの役割や関係性が明確になります。

たとえば、フロアスタッフはお客様の案内・注文・配膳を担当し、厨房は受けた注文をもとに料理をつくってフロアへ渡します。

レジでは会計と精算を行い、仕入先は厨房へ食材や飲料を納品します。

図4-1-11 中華料理店のビジネス構造図(店内飲食:現状)

    

■ 図を見ながら確認する

AIが作成した図をそのまま使うのではなく、実際の仕事と照らし合わせて内容を確認します。

◆「仕入先からの納品は、どこへ届いているのか」

図では、仕入先からの「食材・飲料・調味料などの納品」の矢印が、店舗の左下へ向かっており、納品先が明確ではありません。

実際には、仕入先から納品された食材や飲料は、厨房・バックヤードへ届きます。したがって、青い矢印は仕入先から厨房へ直接つながる形に修正した方がよいでしょう。

これにより、フロアスタッフやお客様のテーブルへ納品されるように見える誤解を防げます。

図4-1-12 AIとの対話で修正したビジネス構造図(納品先の明確化)

   

◆「注文は、誰から誰へ伝わっているのか」

注文は、まずお客様からフロアスタッフへ伝わります。フロアスタッフは注文票に記入し、その内容を厨房へ口頭で伝えます。
厨房が、お客様から直接注文を受けるわけではありません。

現在の図では、「来店・人数・注文・追加注文」が一つの矢印にまとめられています。そこで、注文の流れが分かるよう、次の三つに分けて修正します。

  • お客様 → フロア(接客):来店・人数
  • お客様 → フロア(接客):注文・追加注文
  • フロア(接客) → 厨房(調理):注文内容を口頭で伝える

これにより、注文を受けるのはフロアスタッフであり、厨房はフロアスタッフから注文内容を受け取って調理することが、図から明確に読み取れます。

図4-1-13 AIとの対話で修正したビジネス構造図(注文の流れの明確化)

   

◆「会計は、誰が対応しているのか」

図では、レジの担当について、「手の空いているフロアスタッフや調理スタッフが対応」とあります。

しかし、この店では、手の空いているフロアスタッフがレジで会計・精算を担当し、厨房スタッフは調理に集中します。

したがって、現状の図では、レジの担当を次のように明確にします。

・お客様 → レジ(会計):食事代
・レジ(会計)の担当説明:手の空いているフロアスタッフが会計・精算を担当

図4-1-14 AIとの対話で修正したビジネス構造図(会計担当の明確化)

   

◆「人・モノ・金・情報の流れに、漏れや誤りはないか」

全体を確認すると、モノ・金・情報の流れには、大きな漏れや誤りはありません。

  • モノは、仕入先から厨房へ届き、厨房からフロアを通じてお客様へ提供されています。
  • 金は、お客様からレジへ入り、仕入先への支払いも示されています。
  • 情報は、お客様からフロア、フロアから厨房、注文伝票からレジへ伝わっています。

強いて言えば、「人」については、お客様・フロア・厨房・仕入先という役割を箱で示しており、人の移動そのものを矢印では表していません。

そのため、ポイント欄の

人・モノ・金・情報の流れを分けて捉える。

は、次のようにすると、より正確です。

人(役割)・モノ・金・情報の関係を分けて捉える。

図を描き直す必要はありませんが、このように表現を整えると、図の見方がより分かりやすくなります。

図4-1-15 AIとの対話で精度を高めたビジネス構造図(最終確認)

     

■ビジネス構造図から業務フロー図へ

このように、AIが作成した図を実際の仕事と照らし合わせ、一つひとつ問い直しながら、役割・関係・人・モノ・金・情報の流れを整えていきます。
修正後も、前の図より業務の実態が明確になっているかを確認することが大切です。

ビジネス構造図で、全体の役割と関係を整理できたら、次は、仕事がどのような順番で進むのかを「業務フロー図」で整理していきます。

図4-1-16 ビジネス構造図から業務フロー図へ

    

― 順次・分岐・繰り返しから業務を捉える ―

ビジネス構造図で、「誰が・何を・どこへ」受け渡しているかという全体の関係を整理した後は、実際の仕事がどのような順番や条件で進んでいるのかを具体的に捉えます。

そのために活用するのが、業務フロー図です。
業務フロー図では、仕事の流れを時間の順に並べ、どこで判断し、どこで同じ作業を繰り返しているのかを明らかにします。

業務を複雑なまま捉えるのではなく、まずは次の三つの基本的な流れに分けて整理することが大切です。

1 順次(Step by Step)

作業が、上から下、または左から右へ、順番に進む基本的な流れです。前の作業が終わってから、次の作業へ進みます。

〈例〉

   
① 来店客を案内する → ② 注文を受ける → ③ 厨房へ伝える

     

■ AIに業務フロー図の作成を依頼する

ビジネス構造図で、関係者と受け渡しを整理した後は、その内容をもとに、仕事がどのような順番で進むのかをAIに整理してもらいます。

◆AIへの依頼例

先に作成した中華料理店『大将』のビジネス構造図と、最初のヒアリング内容をもとに、店内飲食における基本的な業務フロー図を作成してください。

お客様、フロアスタッフ、厨房スタッフを、縦の三つの列に分けて表示してください。

各作業を担当する人の列に配置し、仕事の受け渡しが分かるように矢印でつないでください。

基本的な流れは、来店、案内、注文、調理、配膳、食事、会計、退店です。注文はフロアスタッフが注文伝票に記載し、厨房スタッフへ伝えます。

会計時には、フロアスタッフが注文伝票をレジへ持参し、会計内容を確認し、会計金額をお客様に伝えます。

お客様が代金を支払い、フロアスタッフが代金を受け取り、レシートを渡します。

今回は、追加注文、料理とドリンクの違い、テイクアウトなどの分岐や繰り返しは入れず、順番に進む業務だけを示してください。

図は太く見やすい矢印を使い、矢印の先端には三角形の矢印を付けてください。

図の中には図番号や図タイトルを入れないでください。

ビジネス構造図やヒアリング内容だけでは判断できない部分は、勝手に決めず、確認が必要な点として挙げてください。

図4-1-17 中華料理店の基本的な業務フロー(順次)

    

2 分岐(Conditional Execution)

状況や条件によって、処理する内容や進むルートが分かれる場面です。
「はい/いいえ」や「Aの場合/Bの場合」のように、何を基準に判断するのかを明確にします。

〈例〉
追加注文を受けたとき、注文内容が「料理」か「ドリンク」かを判断します。

● 料理の場合
注文伝票に記載し、厨房へ伝えます。

調理完成後、料理をテーブルへ配膳します。

● ドリンクの場合
注文伝票に記載し、冷蔵庫からドリンクを出して、テーブルへ提供します。

3 繰り返し(Loop)

特定の条件を満たすまで、同じ作業を繰り返す流れです。
繰り返しの開始条件と終了条件を明確にすることで、作業の漏れや重複を防ぎます。

〈例〉 
お客様から追加注文がある間、次の作業を繰り返します。

① お客様が追加注文する。
② フロアスタッフが追加注文を聞き、注文伝票に記載する。
③ 注文内容が料理かドリンクかを判断する。
④ 料理の場合は厨房へ伝え、調理完成後にテーブルへ配膳する。
⑤ ドリンクの場合は冷蔵庫から出し、テーブルへ提供する。
⑥ お客様が食事を続け、追加注文がなくなるまでこの流れを繰り返す。

    

■ AIに分岐と繰り返しを加えた業務フロー図の作成を依頼する

先に作成した中華料理店『大将』の基本的な業務フロー図をもとに、追加注文における分岐と繰り返しを加えた業務フロー図を作成してください。

お客様、フロアスタッフ、厨房スタッフを、縦の三つの列に分けて表示してください。各作業を担当する人の列に配置し、仕事の受け渡しが分かるように太い矢印でつないでください。矢印の先端には三角形の矢印を付けてください。

食事をしているお客様について、次の流れを追加してください。

① お客様が食事をする。
② 「追加注文はありますか」と判断する。
③ 追加注文がある場合は、お客様が料理または飲み物を選んで追加注文する。
④ フロアスタッフが追加注文を聞き、注文伝票に記載する。
⑤ 「注文内容は料理ですか」と判断する。
⑥ 料理の場合は、厨房スタッフへ伝え、厨房スタッフが調理し、フロアスタッフが料理をテーブルへ配膳する。
⑦ ドリンクの場合は、フロアスタッフが冷蔵庫からドリンクを出し、テーブルへ提供する。
⑧ 料理またはドリンクの提供後は、お客様が食事を続け、「追加注文はありますか」の判断へ戻る。
⑨ 追加注文がない場合は、会計を依頼する流れへ進む。

判断する箇所はひし形で示し、分岐する矢印には「はい」「いいえ」「料理」「ドリンク」の表示を付けてください。

今回はテイクアウトは含めません。図の中には図番号や図タイトルを入れないでください。

図4-1-18 追加注文における分岐と繰り返しを加えた業務フロー

     

■ 業務フロー図を作成するメリット

● ボトルネックを見つけやすくなる
どこで仕事が滞っているのか、待ち時間や無駄な手戻りがないかを確認できます。

● 例外時の対応を明確にできる
「予約がない場合はどうするか」「品切れの場合はどうするか」といった判断基準を整理でき、マニュアル化や属人化の防止につながります。

● 仕事の標準化と共有ができる
担当者が変わっても、同じ手順で仕事を進めやすくなります。

まずは、日常業務の一連の流れを書き出してみましょう。
そして、その流れの中にある「順次」「分岐」「繰り返し」を見つけ、一つずつ整理していきます。

     

■ 業務フロー図から状態遷移図へ

業務フロー図によって、誰がどの順番で仕事を進め、どこで判断や繰り返しが発生するのかを整理できます。

一方で、業務フロー図だけでは、注文や料理といった対象が、受付済みなのか、調理中なのか、提供済みなのかといった「状態の変化」までは、分かりにくい場合があります。

次は、注文や料理がどのような状態をたどって完了するのかを、状態遷移図で整理していきます。

            

― 何をきっかけに、状態がどう変わるのか ―

業務フロー図では、「誰が」「どのような順番で」仕事を進めるのかを整理しました。

しかし、仕事の流れだけでは、注文や料理が現在どの段階にあるのかを、すぐに把握できないことがあります。

たとえば、注文を受けた後、その注文は厨房へ伝わったのか、調理中なのか、料理が完成したのか、すでにお客様へ提供されたのかを確認したい場面があります。

このように、一つの対象がどのような状態をたどって変化するのかを整理するために用いるのが、状態遷移図です。

状態遷移図では、対象となるものを一つ決めます。今回の例では、店内飲食における「注文」を対象にします。

注文は、次のような状態をたどります。

〈例〉

注文受付前
→ 注文受付済み
→ 厨房へ伝達済み
→ 調理中
→ 調理完了
→ 配膳済み
→ 会計済み(完了)

ここで大切なのは、状態が変化するきっかけです。

たとえば、「注文受付済み」から「厨房へ伝達済み」に変わるのは、フロアスタッフが厨房スタッフへ注文を伝えたときです。
また、「調理中」から「調理完了」に変わるのは、厨房スタッフが料理を作り終えたときです。

このように、状態と状態を変える出来事を結び付けて整理することで、現在の状況と、次に必要な対応が分かりやすくなります。

なお、追加注文があった場合は、新しい注文が発生します。その注文も、「注文受付済み」から同じ状態の流れをたどります。

     

■ AIに状態遷移図の作成を依頼する

業務フロー図をもとに、注文の状態変化をAIに整理してもらいます。

◆AIへの依頼例

先に作成した中華料理店「大将」の業務フロー図をもとに、店内飲食における「注文」の状態遷移図を作成してください。

対象は「注文」一つです。

担当者ごとの業務フローや連携図にはせず、注文がどのような状態に変化するかだけを示してください。

状態は、次の順番にしてください。

開始状態
→ 注文受付済み
→ 厨房へ伝達済み
→ 調理中
→ 調理完了
→ 配膳済み
→ 会計待ち
→ 会計済み
→ 終了状態

状態は角丸の四角形で示してください。開始状態は塗りつぶした丸、終了状態は二重丸で示してください。

状態が変わるきっかけを、矢印のそばに次のように記載してください。

「お客様が注文する」
「フロアスタッフが厨房へ伝える」
「厨房スタッフが調理を始める」
「調理が完了する」
「フロアスタッフが配膳する」
「お客様が会計を依頼する」
「会計が完了する」

横長の図にし、上段は「注文受付済み」から「調理完了」までを左から右へ配置してください。

次に下段右側の「配膳済み」へつなぎ、「会計待ち」「会計済み」を右から左へ配置してください。

図の下部には、「追加注文があった場合、追加注文は新しい『注文』として扱い、再び『注文受付済み』から同じ状態の流れをたどる」と注記してください。

図の下部に、「開始状態」「状態」「状態の遷移(きっかけ)」「終了状態」の凡例を付けてください。図番号や図タイトルは入れないでください。

文字と矢印は太く、大きく、見やすくしてください。

図4-1-19 中華料理店における注文の状態遷移図

   

■ 状態遷移図を作成するメリット

現在の状況を把握しやすくなる
注文や料理が、現在どの段階にあるのかを確認しやすくなります。

対応漏れや滞留を見つけやすくなる
「厨房へ伝わっていない」「調理完了後に配膳されていない」など、作業が止まっている状態を見つけやすくなります。

例外時の対応を整理しやすくなる
品切れ、注文取消し、調理のやり直しなど、通常とは異なる状態や対応を整理できます。

システム化する際の条件を明確にできる
スマホオーダーや厨房表示システムなどを導入する際に、どの状態を記録し、誰に通知する必要があるのかを考えやすくなります。

     

■ 状態遷移図から情報モデル図へ

状態遷移図によって、注文や料理がどのような状態をたどるのかを整理できます。

次は、注文、料理、お客様、注文伝票、会計といった業務上の情報を取り上げ、それぞれがどのような項目を持ち、どのようにつながるのかを、情報モデル図で整理していきます。

         

業務フロー図では、仕事がどのような順番で進むのかを整理しました。状態遷移図では、「注文」がどのような状態をたどるのかを整理しました。

次は、その仕事を支えている情報そのものに目を向けます。

たとえば、注文を受ける仕事には、注文した料理や飲み物、数量、金額、注文を受けた時刻、テーブル番号など、さまざまな情報が関わっています。
また、会計を行うためには、注文内容と金額が正しく結び付いていなければなりません。

このように、業務で扱う情報の種類と、その情報どうしの関係を整理するために用いるのが、情報モデル図です。

情報モデル図では、「何の情報を管理するのか」「それぞれにどのような項目があるのか」「情報どうしがどのようにつながるのか」を整理します。

今回の中華料理店では、店内飲食に関わる基本的な情報として、次のようなものがあります。

〈例〉

来店
注文
注文明細
メニュー
テーブル
会計

ここで重要なのは、追加注文も含めて、情報どうしの関係を整理することです。

たとえば、一回の来店では、最初の注文に加えて追加注文が発生することがあります。
そのため、一つの「来店」に対して、複数の「注文」が結び付きます。

また、一つの「注文」には、料理や飲み物を複数記載できます。
そのため、一つの「注文」に対して、複数の「注文明細」が結び付きます。

さらに、それぞれの「注文明細」は、どの料理または飲み物を注文したのかを示す「メニュー」と結び付きます。

つまり、基本的な関係は次のように整理できます。

来店 → 複数の注文
注文 → 複数の注文明細
注文明細 → 一つのメニュー
来店 → 一つのテーブル
来店 → 一つの会計

紙の注文伝票は、注文内容を書き留めるための帳票です。
情報モデル図では、注文伝票そのものではなく、伝票に記録される「注文」や「注文明細」という情報に分けて考えます。

    

■ 情報どうしの関係を読む

情報モデル図では、情報どうしを結ぶ線の両端に、「1」「多」「0..1」といった記号を付けます。
これは、一つの情報に対して、もう一方の情報が何件結び付くのかを示すものです。

「1」は、一件だけ結び付くことを示します。
「多」は、複数件結び付くことを示します。
「0..1」は、まだ結び付いていない場合もあるが、結び付く場合は一件までであることを示します。

〈例〉

「来店」1 ― 多「注文」
一回の来店では、最初の注文と追加注文を含め、複数の注文が発生することがあります。

「注文」1 ― 多「注文明細」
一つの注文には、料理や飲み物を複数記載できます。

「注文明細」多 ― 1「メニュー」
複数の注文明細は、それぞれ一つのメニューを示します。

「テーブル」1 ― 多「来店」
一回の来店では一つのテーブルを利用しますが、同じテーブルは、別の日時には別のお客様にも利用されます。

「来店」1 ― 0..1「会計」
会計前の来店には会計情報がありません。会計が完了すると、その来店に対して一件の会計情報が記録されます。

    

■ AIに情報モデル図の作成を依頼する

業務フロー図と状態遷移図をもとに、店内飲食に必要な情報と、その関係をAIに整理してもらいます。

◆AIへの依頼例

先に作成した中華料理店「大将」の業務フロー図と状態遷移図をもとに、店内飲食における情報モデル図を作成してください。

今回は、予約、テイクアウト、デリバリーは含めず、店内飲食に必要な基本情報だけを対象にしてください。

情報の種類は、「来店」「テーブル」「注文」「注文明細」「メニュー」「会計」とします。

それぞれの情報に、次の項目を記載してください。

来店:来店番号、来店日時、人数
テーブル:テーブル番号、席数
注文:注文番号、注文日時、注文状態
注文明細:明細番号、数量、金額
メニュー:メニュー番号、メニュー名、単価、区分
会計:会計番号、合計金額、支払方法、会計日時

情報の種類を四角形で示し、情報どうしを線で結んでください。

関係は、「一回の来店には複数の注文がある」「一つの注文には複数の注文明細がある」「一つの注文明細は一つのメニューを示す」「一回の来店は一つのテーブルを利用し、同じテーブルは異なる日時に複数の来店で利用される」「会計前は会計情報がないため、一回の来店に対して会計情報は0..1件とする」としてください。

「1」「多」「0..1」の関係が分かるように表示してください。図番号や図タイトルは入れず、文字を大きく見やすくしてください。

図4-1-20 中華料理店における店内飲食の情報モデル図

     

■ 五つのモデリング手法をまとめる

ここまで、同じ中華料理店の業務を、五つの異なる視点から整理してきました。

リッチ・ピクチャでは、店舗で働く人、お客様、厨房、レジ、仕入先などを一枚の絵で捉え、仕事の全体像と現場の様子を把握しました。

ビジネス構造図では、誰がどのような役割を担い、人・モノ・金・情報をどこへ受け渡しているのかを整理しました。

業務フロー図では、仕事がどのような順番で進むのか、どこで分岐し、どこで繰り返しが発生するのかを整理しました。

状態遷移図では、注文が受付から調理、配膳、会計まで、どのような状態をたどるのかを整理しました。

情報モデル図では、来店、注文、注文明細、メニュー、会計など、業務を支える情報の種類と、その関係を整理しました。

このように、同じ業務でも、見る視点を変えることで、これまで見えにくかった問題や改善の可能性が見えてきます。

ただし、図を作成すること自体が目的ではありません。実際の仕事と照らし合わせながら、「どこに負担や待ち時間があるのか」「情報や役割に漏れはないか」「お客様にとって不便な点はないか」を確認することが大切です。

次は、ここまで整理した五つの図をもとに、経営者、従業員、お客様それぞれの視点から、現状の課題を網羅的に整理していきます。

図4-1-21 五つのモデリング手法で現状を多面的に捉える

        

― 経営者・従業員・お客様の視点から課題を構造化する ―

五つのモデリング手法によって、中華料理店「大将」の役割、仕事の流れ、注文の状態、情報の関係を整理しました。

次に行うのは、現場で実際に起きている困りごとを確認し、課題として整理することです。

ここで大切なのは、図を見ただけで「ここが問題です」と決め付けたり、いきなり解決策を考えたりしないことです。

まずは、店を経営する人、店で働く人、店を利用するお客様の声を聞きます。
そして、聞き取った具体的な声を、先に作成した図と照らし合わせながら整理していきます。

      

■ DXコンサルタントとして、現場の声を聞く

五つの図で業務の全体像を整理した後、私はDXコンサルタントとして、中華料理店「大将」の料理長兼経営者を訪ねます。

料理長兼経営者、従業員、お客様には、それぞれ異なる立場の困りごとがあります。
その声を具体的に聞き取ることから、現状の課題整理を始めます。

    

1 料理長兼経営者へのヒアリング

私は、料理長兼経営者に尋ねます。

「料理長として、また経営者として、この店を続け、もっとよくしていくうえで、今いちばん悩んでいることは何ですか。」

料理長兼経営者は、次のように話します。

「難しい料理や、味の決め手になる料理は私が作っています。ただ、ほかの料理人やアルバイトにも調理を任せているので、料理によって味や量にばらつきが出ないかは心配です。」

「最近は材料費が上がっています。このままでは利益が出にくくなるので、値段を上げるべきか、メニューや仕入れを見直すべきか、悩んでいます。」

「昼の忙しい時間帯には、お客様が集中します。注文が一度に入ると厨房が回らなくなり、料理を出すまでに時間がかかってしまいます。」

「フロアスタッフはアルバイトが中心なので、必要な時間に人を集めるのが難しいことがあります。新人が入るたびに、仕事を覚えてもらうことも必要です。」

「仕入れも難しいですね。食材が余れば無駄になりますし、足りなければ注文を受けられません。どれくらい仕入れればよいか、いつも経験を頼りに判断しています。」

    

2 従業員へのヒアリング

次に、フロアスタッフに話を聞きます。

「仕事をする中で、困ることや、気を使うことは何ですか。」

フロアスタッフからは、次のような声が出てきます。

「新人のうちは、テーブル番号と席の位置を覚えるのが大変でした。」

「注文伝票にテーブル番号を書いていますが、混雑していると、どの料理をどのテーブルへ持っていくのかを確認し直すことがあります。」

「追加注文、料理の完成、会計の依頼が同じ時間に重なると、どの仕事から対応するか迷います。」

「厨房へ注文を口頭で伝えるとき、忙しいと聞き返しが必要になったり、伝えるまでお客様を少し待たせたりすることがあります。」

    

3 お客様へのアンケート

お客様の声は、店内で簡単なアンケートを実施して確認します。

たとえば、会計後に「料理」「注文のしやすさ」「提供までの時間」「会計のしやすさ」について、短いアンケートに回答してもらいます。

アンケートには、次のような声が集まるかもしれません。

「料理はおいしいが、注文してから出てくるまで時間がかかることがある。」

「追加注文や会計を頼みたいとき、スタッフに声をかけるタイミングが難しい。」

「混んでいるときは、注文した料理がいつ来るのか分からず、少し気になる。」

「料理はおいしいが、日によって味や量に違いを感じることがある。」

このように、経営者、従業員、お客様の声を具体的に集めます。

次に、これらの声をAIと五つの図を使って整理し、誰が、どの場面で、何に困っているのかを構造化していきます。

■ ヒアリングした声を、五つの図と照らし合わせる

ヒアリングで集めた声を、そのまま並べるだけでは、どこに問題があり、何を確認すればよいのかが分かりにくい場合があります。

そこで、先に作成した五つの図を「現場の声を整理するための地図」として使います。

五つの図は、それぞれ次のような場面で役立ちます。

図4-1-22 五つの図で現場の声を整理する

   

■ ヒアリング結果から、追加で確認すること

三つの立場から聞き取った声を五つの図と照らし合わせると、次の点を追加で確認する必要があると分かります。

◆料理の品質を安定させられているか
料理長兼経営者は、料理人やアルバイトに調理を任せる中で、味や量にばらつきが出ないかを心配しています。お客様からも、日によって味や量に違いを感じるという声が出ています。
調理手順、レシピ、教育、品質確認の方法を追加で確認します。

◆材料費と利益を把握できているか
料理長兼経営者は、材料費の上昇によって利益が出にくくなっていると感じています。
メニュー別の原価、販売価格、販売数、利益を確認します。

◆昼の混雑時に、料理の提供が遅れていないか
料理長兼経営者は、注文が集中すると厨房が回らず、料理の提供が遅れると感じています。従業員とお客様からも、注文や提供に時間がかかるという声が出ています。
注文、調理、配膳の流れのどこで処理が滞るのかを確認します。

◆フロアスタッフが仕事を進めやすいか
料理長兼経営者は、フロアスタッフを集めにくく、新人教育にも負担を感じています。従業員からは、テーブル番号や席の位置を覚えること、混雑時に複数の仕事が重なることへの困りごとが出ています。
必要な人員、役割分担、新人が覚えるべき仕事を確認します。

◆注文と料理の提供状況を共有できているか
従業員は、どの料理をどのテーブルへ持っていくのかを確認し直すことがあります。お客様は、注文した料理がいつ来るのか分かりにくいと感じています。
注文内容、テーブル番号、調理状況、配膳状況を、誰がどのように確認しているのかを整理します。

◆仕入れと在庫を適切に判断できているか
料理長兼経営者は、食材が余る場合と不足する場合があり、仕入れ量を経験で判断しています。
仕入れ、在庫、販売数、廃棄の情報を確認します。

この段階では、これらを解決策ではなく、ヒアリングから見えてきた現状課題の候補として整理します。
原因、優先順位、具体的な改善策は、まだ決めません。

     

■ AIにヒアリング結果を構造化させる

ヒアリング記録と五つの図をAIに渡し、発言ごとに、どの業務や情報に関係しているのかを整理してもらいます。

◆AIへの依頼例

次の中華料理店「大将」に関するヒアリング記録を整理してください。
ヒアリング記録は、料理長兼経営者、従業員、お客様から集めた声です。記録にない事実、原因、解決策は追加しないでください。

複数の発言に共通する困りごとをまとめ、現状課題の候補として五つ程度に整理してください。
各課題について、「関係する人の声」「起きている場面」「関係する図」「追加で確認すべきこと」を簡潔に記載してください。

関係する図は、「リッチ・ピクチャ」「ビジネス構造図」「業務フロー図」「状態遷移図」「情報モデル図」から選んでください。五つの図だけでは整理しきれない内容は、「追加確認が必要」と記載してください。

A4縦1ページに収まる分量を目安に、見出しと短い箇条書きで整理してください。解決策は提案しないでください。

■ ヒアリング結果から整理した現状課題の候補

1 料理の品質を安定させること

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、料理人やアルバイトに調理を任せる際の味や量のばらつきを心配している。お客様からも、日による味や量の違いを感じるという声がある。
  • 起きている場面:調理、配膳
  • 関係する図:リッチ・ピクチャ、情報モデル図
  • 追加で確認すべきこと:レシピ、調理手順、教育方法、品質確認の方法
    ※追加確認が必要

     

2 昼の混雑時に料理の提供が遅れること

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、注文が集中すると厨房が回らないと感じている。従業員とお客様からも、料理の提供を待つことがあるという声がある。
  • 起きている場面:注文受付、調理、配膳
  • 関係する図:業務フロー図、状態遷移図
  • 追加で確認すべきこと:注文から提供までの時間、調理・配膳のどこで待ち時間が発生しているか

    

3 注文・料理・会計の状況を共有しにくいこと

  • 関係する人の声:従業員は、追加注文、料理の完成、会計依頼が重なると優先順位に迷う。お客様は、注文した料理がいつ届くのか分かりにくいと感じている。
  • 起きている場面:追加注文、調理完了、配膳、会計依頼
  • 関係する図:ビジネス構造図、業務フロー図、状態遷移図、情報モデル図
  • 追加で確認すべきこと:注文内容、テーブル番号、料理の進行状況を確認・共有する方法

     

4 フロアスタッフの確保と育成に負担があること

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、必要な時間に人を集めにくく、新人教育も必要だと感じている。従業員は、テーブル番号や席の位置を覚えることに苦労している。
  • 起きている場面:来店案内、注文受付、配膳、会計
  • 関係する図:リッチ・ピクチャ、ビジネス構造図、業務フロー図
  • 追加で確認すべきこと:時間帯ごとの必要人数、役割分担、新人が覚える業務

    

5 仕入れ・材料費・利益を把握しにくいこと

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、材料費の上昇、食材の余りや不足、利益の確保に悩んでいる。
  • 起きている場面:仕入れ、在庫管理、メニュー価格の判断
  • 関係する図:ビジネス構造図、情報モデル図
  • 追加で確認すべきこと:メニュー別の原価・販売数・販売価格・利益、在庫量、廃棄量
    ※追加確認が必要

   

■ AIにさらに質問して、見落としを確かめる

AIが整理した結果を、そのまま確定するのではありません。
第3部で学んだように、追加の質問を重ね、見落としている視点がないかを確かめます。

◆AIへの追加の質問例

先ほど整理した現状課題の候補について、ヒアリング記録をもう一度確認してください。
最初の整理では、料理の品質、提供の遅れ、注文・料理・会計の状況共有、人材の確保と育成、仕入れ・材料費・利益の把握を課題候補として挙げました。

このほかに、経営者、従業員、お客様の立場から見落としている困りごとはありませんか。
すでに挙げた課題と重なる場合は、より具体的な困りごととして整理してください。
ヒアリング記録にない事実、原因、解決策は追加しないでください。

◆AIからの回答例

最初に整理した五つの課題候補に加えて、次のような具体的な困りごとを確認できます。

1 お客様がフロアスタッフへ声をかけにくいこと

  • 根拠となる声:追加注文や会計を頼みたいとき、スタッフに声をかけるタイミングが難しい。
  • 関係する場面:追加注文、会計依頼
  • 関係する図:リッチ・ピクチャ、業務フロー図
  • 追加で確認すべきこと:お客様がスタッフを呼ぶ方法、スタッフが客席を確認する頻度。

    

2 注文内容を厨房へ正確に伝えにくいこと

  • 根拠となる声:忙しいとき、口頭で注文を伝えると、聞き返しが必要になることがある。
  • 関係する場面:注文受付、厨房への伝達
  • 関係する図:ビジネス構造図、業務フロー図
  • 追加で確認すべきこと:料理名、数量、テーブル番号を厨房へ伝え、確認する手順。

    

3 料理を届けるテーブルを確認し直すことがあること

  • 根拠となる声:混雑時には、どの料理をどのテーブルへ持っていくのかを確認し直すことがある。
  • 関係する場面:料理の完成、配膳
  • 関係する図:業務フロー図、状態遷移図、情報モデル図
  • 追加で確認すべきこと:料理の完成時に、テーブル番号と注文内容を確認する方法。

    

4 複数の仕事が重なったときに、対応の順番を判断しにくいこと

  • 根拠となる声:追加注文、料理の完成、会計の依頼が同じ時間に重なると、どの仕事から対応するか迷う。
  • 関係する場面:混雑時のフロア業務
  • 関係する図:業務フロー図、状態遷移図
  • 追加で確認すべきこと:混雑時における業務の優先順位と、スタッフ間の役割分担。

このように、最初の整理で挙げた大きな課題を、さらに具体的な困りごとへ掘り下げられます。
AIとの対話では、「ほかにないですか」「具体的には何ですか」「どの場面で起きますか」と問い直すことで、課題の見落としを減らしていきます。

    

■ 現時点での課題候補一覧を作成

ここまでのヒアリング結果とAIとの対話をもとに、仮説としての課題候補を一覧にします。

  

◆AIへの追加質問

これまでのヒアリング記録と、先ほど整理した課題候補を統合してください。
重複する内容をまとめ、中華料理店「大将」における現時点での課題候補一覧を作成してください。
各課題について、「関係する人の声」「起きている場面」「関係する図」「追加で確認すべきこと」を記載してください。
ヒアリング記録にない事実、原因、解決策は追加しないでください。

図4-1-23 ヒアリング結果から整理した現状課題の候補

      

■ ヒアリング結果から整理した現状課題の候補

1 料理の品質を安定させること

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、料理人やアルバイトに調理を任せる際の味や量のばらつきを心配している。お客様からも、日による味や量の違いを感じるという声がある。
  • 起きている場面:調理、配膳
  • 関係する図:リッチ・ピクチャ
  • 追加で確認すべきこと:レシピ、調理手順、教育方法、品質確認の方法
    ※五つの図だけでは整理しきれないため、追加確認が必要

    

2 昼の混雑時に料理の提供が遅れること

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、注文が集中すると厨房が回らないと感じている。従業員とお客様からも、料理の提供を待つことがあるという声がある。
  • 起きている場面:注文受付、調理、配膳
  • 関係する図:業務フロー図、状態遷移図
  • 追加で確認すべきこと:注文から提供までの時間、調理・配膳のどこで待ち時間が発生しているか

    

3 注文・料理・会計の状況を共有しにくいこと

  • 関係する人の声:従業員は、追加注文、料理の完成、会計依頼が重なると優先順位に迷う。お客様は、注文した料理がいつ届くのか分かりにくいと感じている。
  • 起きている場面:追加注文、調理完了、配膳、会計依頼
  • 関係する図:ビジネス構造図、業務フロー図、状態遷移図、情報モデル図
  • 追加で確認すべきこと:注文内容、テーブル番号、料理の進行状況を確認・共有する方法

    

4 フロアスタッフの確保と育成に負担があること

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、必要な時間に人を集めにくく、新人教育も必要だと感じている。従業員は、テーブル番号や席の位置を覚えることに苦労している。
  • 起きている場面:来店案内、注文受付、配膳、会計
  • 関係する図:リッチ・ピクチャ、ビジネス構造図、業務フロー図
  • 追加で確認すべきこと:時間帯ごとの必要人数、役割分担、新人が覚える業務

    

5 仕入れ・材料費・利益を把握しにくいこと

  • 関係する人の声:料理長兼経営者は、材料費の上昇、食材の余りや不足、利益の確保に悩んでいる。
  • 起きている場面:仕入れ、在庫管理、メニュー価格の判断
  • 関係する図:ビジネス構造図、情報モデル図
  • 追加で確認すべきこと:メニュー別の原価・販売数・販売価格・利益、在庫量、廃棄量
    ※五つの図だけでは整理しきれないため、追加確認が必要

    

6 注文内容を厨房へ正確に伝えにくいこと

  • 関係する人の声:従業員は、忙しいときに厨房へ注文を口頭で伝えると、聞き返しが必要になることがあると話している。
  • 起きている場面:注文受付、厨房への口頭伝達
  • 関係する図:ビジネス構造図、業務フロー図
  • 追加で確認すべきこと:料理名、数量、テーブル番号を厨房へ伝え、確認する手順

    

7 お客様がフロアスタッフへ声をかけにくいこと

  • 関係する人の声:お客様は、追加注文や会計を頼みたいとき、スタッフに声をかけるタイミングが難しいと感じている。
  • 起きている場面:追加注文、会計依頼
  • 関係する図:リッチ・ピクチャ、業務フロー図
  • 追加で確認すべきこと:お客様がスタッフを呼ぶ方法と、スタッフが客席を確認する頻度

このように、AIとの対話を重ねることで、大きな課題としてまとめるだけでなく、その中に含まれる具体的な困りごとまで掘り下げることができます。

大切なのは、AIが整理した内容を結論とせず、現場の声や実際の仕事と照らし合わせながら、課題の漏れや重なりを確かめることです。

ここで整理した七つの課題候補をもとに、次は、それぞれの原因や影響を確認し、取り組む課題の優先順位を検討していきます。

     

図4-1-24 ヒアリングと五つの図で現状課題を整理する

      

4-1では、中華料理店「大将」を題材に、現状の仕事を五つのモデリング手法で整理しました。

リッチ・ピクチャで、店に関わる人や場所、仕事の全体像を捉えました。

ビジネス構造図で、誰が誰と関わり、人・モノ・金・情報がどのように受け渡されているかを整理しました。

業務フロー図で、仕事の順番、分岐、繰り返しを確認しました。

状態遷移図で、注文が受付から会計まで、どのような状態をたどるのかを整理しました。

情報モデル図で、来店、注文、メニュー、会計などの情報と、その関係を整理しました。

さらに、料理長兼経営者、従業員、お客様の声を聞き、五つの図と照らし合わせました。

その結果、料理の品質、料理の提供時間、注文や会計の状況共有、スタッフの確保と育成、仕入れや利益の把握など、現場の課題候補を構造的に捉えることができました。

大切なのは、図を描くこと自体が目的ではないということです。

図とヒアリングを組み合わせることで、思い込みだけで問題を決めず、現場で実際に起きている困りごとを、より網羅的に捉えられます。

4-1では、現状を見える化し、課題候補を抽出するところまでを行いました。
次の4-2では、ここで整理した課題候補をもとに、どのような未来の姿を目指すのかを考え、業務やサービスのあり方をデザインしていきます。

図4-1-25 五つのモデリング手法で現状を見える化し、課題候補を抽出する

     

4-2 未来をデザインするために
― なりたい姿を明確にし、チームで実行する力へ ―

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